か行の作家

2014年06月03日

『書楼弔堂 破暁』 京極夏彦 

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「書楼弔堂 破暁」 京極夏彦


やっと読み終えました。

最後まで私の好きなテイストという印象は裏切られませんでした。

自分ってやっぱり本が好きなんだなと実感させられましたね。

最近でてた京極さんの作品はイマイチ満たされてなかったので

待ってましたという感じです。


御一新からはや20年以上。明治中頃の東京。

大量の書物に埋め尽くされる弔堂という古本屋で本に巡り会う人たち。

本の成仏させるところだから「弔堂」

わけありな主人の巧みな話と、誰もが知っているあの人たちの妄想広がる短編たち。

弔堂の主人は核心は鋭く突いたりするんですが

知識は豊富なのに語りもソフトで、あたりがやわらかくていいですね。

全然否定しない。

その分、実は嫌味な人物なのかもしれないけれど。

まあ、得体のしれない人です。


他のシリーズと同じく

知識の豊富な人がいて、どうも生き方がダメダメな人がいて。

最後の「未完」という中でストーリーテイラー的な高遠にも1冊の本が用意されるのですが

仕事もしない、家にも帰らない無為に暮らす自分に嫌気がさしながら

でも何もできないやれないと悶々としているそんな男に
(思考の停滞の仕方が自分かと思った)

「生まれてから死ぬまでの間、生に決着や結末はない。それはずっとだらだらと続くもの」

「人間は書きかけの書物と同じで未完なのですよ」

というセリフ。

生きていればすなわち未完。


だから、(誰が何と言おうと)自分のことは自分で決めたらいい。

どんな(にダメで恥ずかしい)生き方でも自信持ってやればいいよ。

ビビってないで(ダメな)自分認めろよ。
(どっちにしろお前だろ)

・・・と納得させられました。

自己肯定してもらって大満足です(笑)

この最後の章、京極堂のあの人につながる話なので

ファンは見逃せませんね。


本を読むこと、本って何を考えさせられます。

本好きの人、幕末好きの人、京極夏彦はまだ読んだことないという人にお勧めしたいです。


sibainunohi at 22:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2013年10月11日

「古都トコトコ記・断食への道」 銀色夏生

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「古都トコトコ記・断食への道」


しばイヌの好きな京都や奈良を旅した記録ってことで読んでみました。

銀色さん、神社仏閣、仏像、興味ないのに大丈夫かしら?

と思っていましたが。

今回はじっくり見てみると言ってますが

やっぱり、途中から興味なくなってましたね。

まあ、銀色さんらしいです。

タイトル通り、旅行記だけじゃなく、断食体験記、その上、6年前の散歩記まで抱き合わせで

旅行記期待派の方には

物足りない内容でしょうね。

人物観察がするどい断食体験

写真が楽しいさんぽの話は結構面白かったんですが。

「つれづれ」のスピンオフみたいな位置づけかしら。

最近スピリチュアルに濃厚になりつつある「つれづれ」よりも

あっさりと銀色目線の日常を楽しめる内容です。




sibainunohi at 16:04|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2013年10月02日

「悪の経典」 貴志祐介

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「悪の経典」 貴志祐介

若くてかっこよく、生徒受けのいい英語教師、蓮見聖司。

ルックスとさわやかな弁舌、正義感も強く上司、同僚、保護者までも虜にする魅力あふれる人物。

けれど、邪魔者は容赦なく排除する

共感性が欠如した恐ろしい殺人鬼だった。


映画を先にみたんですが

どうしても、センセーショナルな生徒の大量殺人がクローズアップされてて

蓮見っていったいどういう人物なんだ!っていうのが

いまいちはっきりしませんでした。

伊藤英明はグッドなキャスティングでした。

サイコな人物がこんなに似合うとは。



原作の本書は、上下2巻の分厚さ、主に上巻で

蓮見という人物がよくわかってよかった~。

とても擬態がうまい、とてもあたまがいい人なんですね。

自分にとって邪魔なものの排除の仕方に平気で「殺人」を選べるところが

普通の人と大きく違うところだそうで(本人も言ってる)

そこそこ楽しめ(?)ました。

でも、歯車がくるってクラスの生徒た全員殺そうとか

それで、取り繕えると考えるところがもう異常。

かつての同級生の女子のくだりとかで

理性の片鱗のようなものを感じさせますが

そこで、簡単に屈さなかったところが、話全体を壊さなくてよかったです。

この分量を一気に読ませるエンターテイメントさが素晴らしい魅力ですね。

空っぽなんだけど、何かが変化しそうで

蓮見聖司という、殺人鬼ももっと見てみたいという気にさせますし

続編とかですのかな?


内容とかはかなり好みが分かれる作品です。





sibainunohi at 19:21|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2013年07月19日

「拙者は食えん!ーサムライ洋食事始ー」 熊田忠雄

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「拙者は食えん!-サムライ洋食事始-」 熊田忠雄


タイトル通り、幕末~明治初期

初めて「洋食」と向かい合った日本人の記録を紹介したものです。

米、魚、野菜というさっぱりしたというか、質素な食生活だったのが

牛肉、鶏肉、豚肉、それにバター、乳製品に悪戦苦闘している様は

いまや、あらゆる国の料理が楽しめる、グルメ大国となった同じ日本なのか?

と笑ってしまいます。

とにかく、みんなバターがダメみたいですね。


海外視察で渡航を余儀なくされたサムライたちが

アメリカやフランスの軍艦で持ち込んだ味噌や醤油を「腐ったもの」として

捨てられたとか積んでもらえなかったとか。

欧米での晩さん会で、いろんな種類の料理をとにかく物珍しげに食べたとか。

とにかく、シャンパンなど酒類の摂取はすごかったとか。

集団で好奇心を抑えきれない様子もおもしろい。

仕事で行ってるんだから、食事などの些末なこと・・・といいつつ

ちまちま愚痴ってて

普段の食べなれた食事って大事なんだな~と思わせられる本でした。





sibainunohi at 17:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2013年07月16日

「塩壷の匙」 車谷長吉

第119回直木賞受賞作「赤目四十八瀧心中未遂」の作者の私小説「塩壷の匙」。

著者が親族から絶縁に至ったというような話を聞いて

どんなセンセーショナルな内容なのかと思って読んでみました。


祖母が闇の高利貸し、叔父の自殺。

子どもの目線で、家系の闇を覗き見る話でした。

子どもでも容赦しないで殴る曾祖父の恐ろしさ

吉祥天のような風貌と獰猛酷薄を併せ持つ祖母

家業(母方)のせいでの暴力暴言

どんどんと変質していく叔父の死。

淡々とした回想録のようであり

見てはいけないものを見てしまったという後味の悪さを感じさせる作品。




sibainunohi at 18:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0)